大学等連携事業

2006年度 富山県大学連携協議会公開講座 「環日本海諸国の経済的な相互依存」


2006年度 富山県大学連携協議会公開講座
平成18年9月30日
富山県民会館701号室
第1回 1限目

講師  富山大学極東地域研究センター長 教授
古田 俊吉氏

はじめに

 今日は、環日本海を中心とした諸国の経済的な相互依存関係を考察してみたい。各国の経済は、他の国と財やサービスの流れを通じてお互いに依存し合っている。つまり、「私は中国は嫌い」とか「私はロシアは嫌い」という人がいるが、私たちの日常生活はそれでは動いていかないので、もう少し冷静な目で付き合っていくことが大事だということだ。

 環日本海諸国とは、通常は日本と中国、とりわけ東北三省と、韓国、北朝鮮、極東ロシア、モンゴルなどの諸国・地域をいう。大人口を抱え、世界の大市場であり大生産国である中国がこの地域の一つの核になることは間違いないが、日本・韓国・ASEAN諸国も含め、我々が東アジアと呼ぶ地域の関係が最近非常に深まってきている。したがって、ここでは環日本海地域をもう少し緩やかに捉え、日本・韓国・ロシア・中国を中心に据えながらも、ASEAN10か国の中でも特に経済規模が大きいタイとインドネシアを対象に含めることにしたい。

 以下では、産業連関というキーワードを用いて、環日本海諸国の経済的な相互依存の実態や特徴を見ていきたい。

環日本海諸国を核とする世界の経済規模

表1 世界の国内総生産(名目)(2004年)

※ 総務省統計局の資料より作成。

世界 a  
    GDP(10億ドル) 40088.0
    構成比(%) 100.0
アジア(中東以外) (24) 21.9
    東アジア  b 20.3
         日本 11.5
         韓国 1.7
         中国 4.1
         香港 0.4
         タイ 0.4
         インドネシア 0.6
ロシア 1.5
アメリカ合衆国 29.1
ヨーロッパ(39) 33.6
主要先進国(7) 64.4
OECD諸国(30) 82.0
EU加盟国(15) c 30.2
ASEAN加盟国(5) d 1.8
台湾  e 0.9

 まず、表1で、環日本海諸国を核とする世界の経済規模をみておこう。経済的位置としては、2004年の世界全体の国内総生産を100%とすると、アメリカが29.1%なのに対し、この東アジア地域全体では2割を占めている。そのうち中国が今のところ4.1%で、日本のほうがまだその3倍近くの経済規模を持つ。韓国の経済規模は日本の10分の1から8分の1である。しかし、もう少しすればおそらく東アジア全体の総生産がアメリカを追い越すだろう。つまり東アジア地域は、アメリカ・カナダ・メキシコなどをひっくるめたアメリカ大陸に匹敵する生産・消費規模になっていくと思われる。一方、ヨーロッパはEU加盟国が従来の15か国からだんだん増えており、ロシアにもEUの通貨であるユーロが浸透しつつある。将来はロシアなどを含め、ヨーロッパ全体で政治的にも経済的にもアメリカに対抗していくことになるだろう。したがって、政治を別にすると、経済の分野では、将来的にはインドを含めたアジア、北米諸国を含めたアメリカ、そしてヨーロッパで世界を三分することになると思われる。

 そのような長期的流れのなかで、日本はどんな品物を作り、どんな品物を売り(輸出し)、そんな品物を買う(輸入)のか、あるいは、日本はどこの国からどんな品物を買い、どんな品物をどの国へ売っていくのかが経済的に問題となる。昔、私がイギリスへ行ったときには、テレビはシャープや日立、バイクはヤマハ、車は日産やトヨタなどと高品質の品物は日本製であり、着ているもので安い品物はポーランド製などであった。つまり、メイドイン・イングランドというものはなかなか見つからなかったのだが、何十年かたった今、日本でもメイドイン・ジャパンの品物は見つからなくなってきている。

 また、他方で、東アジア地域での相互依存関係が強まってきていることが背景にあって、将来のこの地域における経済的統合を見越して、最近、どういった諸国でグループを組むかといった議論が盛んになっており、「ASEAN+3」とか、「東アジア共同体」の形成といわれるのもこうしたことの現れである。

 現在、世界には208の国・地域があるが、そのうちG7といわれる主要先進国が世界の経済活動の3分の2を占めている。OECD諸国といわれる30の先進諸国では8割以上だ。また、EU15か国(旧EU)が30%を占めるのに対し、ASEAN10か国のうちの主要5か国が占める割合は1.8%にすぎない。ただ、東アジア全体だと2割を占めるので、今後、インドや中国のウエイトが大きくなってくるので将来的にアメリカ経済圏を追い越すこともありうる。

(注) a  地域名の右の( )内は該当する国(地域)の数、 台湾を除いている。
b  東アジアは、日本、韓国、中国、香港、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア。
c  EU(15)は、フランス、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、英国、デンマーク、アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、スウェーデン、フィンランド。
   2004年5月から、キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーラン ド、スロバキア、スロベニアが新たに加わり、EUの加盟国は25カ国となった。
d  ASEAN加盟国(5)は、ASEAN加盟国の中で経済規模が大きな5国。タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア。
   ASEAN加盟国(10)は、ASEAN加盟国(5)にベトナム、ミャンマー、ラオス、ブルネイ、カンボジアを加えた全加盟国。
e  台湾行政院「国民経済動向統計季報」による。

産業連関について

表2 日本の産業連関表(投入係数表)     ※ 総務省統計局の2000年産業連関表より計算。

 

 次に、表2で、産業連関についてみておきたい。産業連関とは、簡単に言って、品物の生産量とそれを生産するのに要する原材料などの間に一定の固定的な関係があり、この関係を通して産業同士が結びついているということである。たとえば、農家がトマトを作るには、まず種と土地が必要で、成長すると棚を作る棒やひも、ハサミや肥料が必要となる。1,000個のトマトを生産するとしよう。すると、生産の技術的な関係から、棒が何本、紐が何メートル、肥料が何キログラム必要になるかが決まってくる。そうすると逆算で、肥料会社から出荷される肥料の量が決まってくるというわけだ。これからまた、肥料の原料を作っている会社から肥料会社に出荷される原材料の出荷量が決まってくる。このような産業の間の連関を非常に細かく見たものが、経済産業省で作っている産業連関表である。これを考案したのはレオンティエフという経済学者だ。現在は各県でもこの産業連関表を作成している。さらに、アジア経済研究所などでは、アジア諸国の間の産業連関表を作っている。この表では、農家から売られるトマトがレストランで料理に作われるのは中間投入とされ、最終的に出てくる料理が最終消費とされる。投入係数とは、ある産出を生み出すのに何をどれだけ使うかを数値で表したものだ。

環日本海諸国の経済的相互依存

表3 貿易依存度(2004年)   (%)

※ ジェトロの資料より作成。

  GDPに占める輸出のシェア GDPに占める輸入のシェア
日本 13.5 11.4
中国 30.7 29.1
韓国 37.3 33.0
ロシア 31.0 16.5
タイ 59.7 58.2
インドネシア 29.2 18.9

 さて、今までお話しした産業連関を念頭に置いて、品物の生産において原材料や部品をどこから調達するかということを考えてみよう。各企業にとってみれば、中国にいい材料や部品があれば、日本を飛び越えて中国から輸入することになる。そのような意味で、日本を含めたアジア諸国はアジア諸国内でお互いに原材料や部品の調達割合を高めつつあり、徐々にアメリカ離れをし始めている。単にアジア諸国でお互いに仲良くしましょうというのではなくて、産業連関を通して自然的にそうなって今や簡単に離れられなくなっているということだ。さらに、日本が外国人労働者を受け入れるのも経済的な流れであって、政治的な関係からではない。

 また、たとえばトマトの中には輸出されたり輸入されたりするものもあるだろう。日本の農林水産業全体で見ると、日本国内で最終的に直接使われるものが27%で、残りは中間投入(原材料)という形になる。また、鉱物性燃料など外国から買わざるをえないものも多い。貿易依存度とは国内総生産に対する輸出入の割合だが、表3からみてとれるように、2004年における日本の経済活動全体に占める輸出の割合は13.5%で、それほど大きくない。輸入の割合も8分の1弱だ。経済の発展により国内の経済規模が大きくなると、その国の経済全体に占める輸出入の割合が次第に減っていくのが一つの傾向だ。現在の韓国や中国は輸出でみて貿易依存度が30%を超えており輸出なしではやっていけないことがわかる。

表4-1 輸出入の品目別構成比:日本(2004年)(%)

※ ジェトロの資料より作成。

輸出 輸入
食料品 0.5 食料品 10.8
繊維及び同製品 1.5 繊維製品 6.0
化学製品 8.5 鉱物性燃料 21.7
一般機械 20.6 化学製品 7.8
電気機器 23.5 機械機器 31.3
輸送用機器 23.1 原料品 6.3
精密機器 4.3 金属及び同製品 5.1

 そういう意味では、アメリカは世界の経済がどう動こうとアメリカだけでやっていけるといえなくもないが、日本はそうはいかない。日本にとっての生命線は石油などの鉱物性資源である。石油を輸入できないと日本はすぐに干上がる。また、アジア諸国がアジア諸国同士でつながりを深めている理由は、表4-1のデータが示すように、食料品だけの関係でなく、日本の輸出に占める電気機器23.5%、輸送機器23.5%という数字に端的に見ることができる。富山県から中国に進出した某企業は日本から部品を買い、海外で最終製品にしたものを日本に売っている。要は、日本は機械を売って機械を買っているのだ。その結果、輸入に占める機械機器の割合が今や3分の1になりつつある。すなわち、日本の貿易パターンは、かつての垂直的分業から水平的分業になりつつあるといえる。

 これを別の面からいうと、一つの会社の製造工程が世界中に分散している状態としてイメージできるということだ。例えば自動車の製造工程を考えると、ある国の工場で鉄が作られ、最終的にある国の工場で車が生産されるとイメージすればよい。このことから、企業の中では製造工程が世界的になって、世界の中で原料から自動車へという垂直的な関係ができているが、国と国の関係でいえば機械を買って機械を作り機械を売るという水平的分業が成り立っているといえる。つまり、かなり以前日本の加工貿易のような原材料を輸入して最終製品を輸出するという関係から、今は機械や部品の相互の輸出入という関係に移行してきているわけである。

 では、こういう視点からみて、日本の経済的にとって今後どの国・地域が大事になっていくだろうか。どうしてもアメリカに車を売らなければいけないのなら、ずっとアメリカと協調していかなければいけない。ところがアジア、中国に売れてそれでよいというのなら、アメリカと固く手を握り続ける必要はない。これは好き嫌いの関係ではなく、どんな機械・部品をどこで入手して、どのように組み合わせてどういう機械を製造し、どこへ売るかという流れから、つまり産業連関から必然的に決まってくるということだ。

   日本以外の環日本海諸国の産業構造や貿易構造に関しては、表4-2~表4-4を参照していただきたい。

表4-2 輸出入の品目別構成比:中国(2004年)(%)

※ ジェトロの資料より作成。

輸出 輸入
食品 3.2 食品 1.6
鉱物燃料・潤滑油 2.4 鉱物燃料・潤滑油 8.6
化学製品 4.4 化学製品 11.7
紡績・ゴム・鉱産物製品 17.0 紡績・ゴム・鉱産物製品 7.8
機械・輸送設備 45.2 機械・輸送設備 45.0
雑製品 26.4 雑製品 8.9

表4-3 輸出入の品目別構成比:韓国(2004年)(%)

※ ジェトロの資料より作成。

輸出 輸入
農林水産物 1.3 農林水産物 6.5
鉱物性燃料 4.0 鉱物性燃料 22.1
化学工業製品 9.9 化学工業製品 10.9
繊維類 6.0 繊維類 2.8
鉄鋼・金属製品 7.2 鉄鋼・金属製品 10.8
機械類 26.4 機械類 12.

表4-4 輸出入の品目別構成比:ロシア(2004年)(%)

※ ジェトロの資料より作成。

輸出 輸入
燃料・エネルギー製品 58.2 食料品・農産物 18.5
金属及び同製品 16.8 金属及び同製品 7.4
機械・設備・輸送機器 7.2 機械・設備・輸送機器 41.6
化学品・ゴム 6.4 化学品・ゴム 16.5
木材・パルプ製品 4.0 木材・パルプ製品 3.8
貴石・貴金属・同製品 3.8 繊維・同製品・靴 3.7

 最後に、表5-1、表5-2を用いて、東アジア諸国の経済的な相互依存関係を整理しておきたい。東アジアを中心として含めた世界的な現在の日本の輸出構成比を見ると、アジアが大体半分、うちASEAN10国が大体8分の1である。特に中国は輸出構成比では7分の1強だが、輸入では5分の1にまで上がってきている。これに香港、台湾を合わせると25%ぐらいになり、韓国も入れると約30%にもなる。このように、貿易相手国としてアジア、特に中国や韓国が大事になってきているということで、一つのグループがもうでき上がってしまっているといえよう。

 一方、輸入構成比で見ると、日本にとってアメリカはすでにナンバー1ではない。2002年から2004年にかけてナンバー2に下がっており、さらに比率が低下し続けている。2002年から日本最大の輸入国は中国なのだ。輸出先ではアメリカは依然として1位だが、中国に台湾、香港を加えるとアメリカのシェアを超える。つまり、今後の日本の輸出入にとって大事なのはアメリカではなくてアジアで、その流れが次第に加速していっているということだ。それに加え、日本の貿易における地盤がアジア諸国においても世界においても下がっている。日本に売らなくても中国に売れるということになってくると、政治的にはともかく、経済的に重要性がなくなっていくという可能性も出てくるのだ。

表5-1 輸出の国・地域別構成比(2004年)   (%)

※ ジェトロの資料より作成。

   輸出相手国 世界 東アジア ロシア 米国 EU25
輸出国     日本 中国 韓国 タイ インドネシア  
世界 100.0 17.1 4.5 5.4 2.2 1.0 0.6 1.1 15.7 39.9
東アジア 100.0 40.4 10.3 13.2 3.3 1.8 1.4 0.8 17.8 15.4
  日本 100.0 46.4 ... 13.1 7.8 3.6 1.6 0.6 22.7 15.8
  中国 100.0 30.5 12.4 ... 4.7 1.0 1.1 1.5 21.1 18.1
  韓国 100.0 39.0 8.6 19.7 ... 1.3 1.5 0.9 17.0 15.0
  タイ 100.0 34.6 13.9 7.3 1.9 ... 3.3 0.3 15.9 14.7
  インドネシア 100.0 37.4 22.3 6.4 6.8 2.8 ... 0.2 12.3 12.6
ロシア 100.0 9.4 2.1 6.0 1.2 0.2 0.9 ... 5.0 53.1
米国 100.0 17.5 6.7 4.3 3.2 0.8 0.3 0.4 ... 21.2
EU25 100.0 4.6 1.5 1.6 0.6 0.2 0.2 1.5 7.9 67.2

表5-1 輸入の国・地域別構成比(2004年)[世界貿易マトリクス]   (%)

※ ジェトロの資料より作成。

   輸出国 世界 東アジア ロシア 米国 EU25
輸入相手国     日本 中国 韓国 タイ インドネシア  
世界 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
東アジア 19.7 46.5 44.9 48.0 28.6 36.5 49.9 13.2 22.3 7.6
  日本 6.2 16.8 ... 15.0 21.7 23.3 18.1 3.1 9.0 2.5
  中国 6.5 11.6 17.9 ... 13.6 6.7 12.5 8.9 8.8 3.0
  韓国 2.8 6.3 5.3 10.1 ... 3.7 7.3 2.3 3.0 1.0
  タイ 1.1 2.2 3.3 1.4 0.9 ... 6.4 0.3 1.1 0.4
  インドネシア 0.8 1.7 3.9 0.9 2.4 2.3 ... 0.2 0.6 0.2
ロシア 1.8 1.0 0.8 2.0 1.0 0.4 0.3 ... 0.6 2.4
米国 9.0 9.2 13.3 7.1 12.9 7.3 5.3 2.9 ... 4.8
EU25 40.7 11.0 13.1 12.1 10.9 10.1 12.3 55.4 20.5 68.6

まとめ

 日本は欧米依存を中心として発展してきた。アジアの国々も同様である。しかし、日本を含めて東アジア諸国はアメリカ依存の発展から東アジア地域経済に依存した発展へと移行しつつある。ちなみに、日本の輸入に占める東アジアの割合は4割、輸出は50%で、北米と欧州を加えたシェアよりも大きい。また、東アジア諸国全体の輸入額の46.4%、輸出額の40.3%がそれぞれ東アジア諸国の品物で占めており、そのシェアは上昇傾向を示している。今後、東アジア諸国の経済的相互依存関係はより強まっていくことが予想され、今以上に経済的協調関係を推進していく必要がある。
 このようなことを前提に、この後の各先生の講義を聴いていただけると、「環日本海地域」に関してより理解が深まると思う。以上で導入部としての私の話を終えたい。