大学等連携事業

2006年度 富山県大学連携協議会公開講座 「日本海による気水圏水循環と雪氷環境」


2006年度 富山県大学連携協議会公開講座
平成18年9月30日
富山県民会館701号室
第1回 2限目

講師  富山大学極東地域研究センター 教授
川田 邦夫氏

地球上の水循環と日本海

 地球の表面にある水の97%以上は海の水だ。その水が蒸発し、雨雲や雪雲を作って、それが落ちてきて地上や河川にたまり、やがてまた海へ戻るという一つの大きな循環を成している。私たちのいる対流圏にある水蒸気を圧縮すると26mmの水になるといわれるが、地球上で年間平均1000mmの降雨があると考えると、1年に約20回もの頻度で雪や雨になって落ちてくるという入れ替わりの循環をしていることになる。

 また、地球全体の水の2%は雪や氷として南極や北極に存在する。日本の面積の37倍ある南極大陸全体を約2000mの厚さの氷が埋め尽くしている。富山の雪氷が融雪水となって海へ戻っていくのは非常に速い循環だが、南極などの寒冷地にたまった氷が氷河となって海へ流出するまでには何十万年という年月がかかる。こういう長期、短期の循環が地球上の各地でたくさん行われていることを知っていただきたい。

 昔の日本は大陸とつながっていたが、そのときの日本の気候は大陸性の気候で、少し内陸に入った所はかなり寒かっただろう。しかし、日本海ができてから、黒潮の支流として日本海へ入ってくる対馬暖流が暖かい海水面を作り、非常に住みやすい気候条件になってきた。また、かつての氷期には、地球上の表面を覆っている水が固体の氷に変わった分だけ海水面が下がり、その分、陸地が多かった。現在の日本海の周りの海峡は、対馬海峡の深さが130m、津軽海峡が130m、宗谷海峡は55m、間宮海峡に至っては12mと非常に浅い。北海道の日高や日本アルプスには2万年ぐらい前には氷河があったといわれている。

 あるとき、「世界の豪雪地帯」ということで調査したところ、雪は寒い所ではなく、むしろ暖かい所に多く降ることが分かった。一般に世界で雪が多いといわれる場所は、ノルウェーの山域、カナダのブリティッシュ・コロンビア州、南米のアンデス山脈、アメリカの五大湖周辺、日本の日本海側だが、いずれもその風上に大きな水蒸気源を持つ。その風上に暖流等があれば、より多くの水蒸気を含んだ雨雲や雪雲がやってくることになるのだ。

 地球上の水の大循環の中での雪氷の役割は、海面や地上から蒸発してきた水を固体として保存することにある。グリーンランドや南極の大陸では沿岸まで硬い氷が何千mという高さにまで積もっている。その押し出す力はすごいもので、あの硬いカチンコチンの氷が粘土や水飴のごとくゆっくり流れて、海へ達する。海の上でそれが切れて流れ出したものが氷山だ。このような極地の雪氷は地球規模の気候変動にかかわっている。一方、富山のような季節的な雪氷は地域の水資源として大きな役割を持つ。近年の温暖化により、富山でも春先の温度が上がって高い山の上で雪が多く降るようになっているが、北海道の北見、釧路など、もともと寒くて雪のない所でも大雪が降るようになった。

 

(写真) 白瀬氷河 

 

 南極中央部でドーム状に高まった、標高3810mの所を、富士山にちなんで「ドームふじ」と言っている。私も2度南極で越冬し、ここでの研究プロジェクトに参加した。今から10年ぐらい前、ドームでの越冬はしなかったものの、2500mの深い穴を掘ってその中の氷を取り出す作業を昭和基地から支援した。南極の雪は融けないので34万年前の氷を取り出すことができたが、あと500m、3000mまで掘ると岩盤に達し、場合によっては80万年前の地球の様子がわかると考えられる。第2期のドーム掘削計画で、今年1月23日には遂に3000mにまで達し、今度の冬に続いて岩盤に達するまでの掘削を行うことになっている。深い所の氷の年代を調べるために、酸素同位体比の分析が行われる。水を構成する酸素の質量数は16が大部分だが、17や18など、ちょっと重たい同位体が含まれる。この比率から、暖かいときにできた氷はより重たい酸素でできていることが分かってきた。この方法を使って、上から下へ層を成す氷の質量分析をした結果、今から1万~7万年前は非常に寒い時期で、それ以前には暖かい時期があったこともはっきり現れる。過去3回の氷期のものが出ており、最初の氷期までも、あと一歩のところまで来ているのである。

 さらに、氷の中に入っている有機物を調べることによって、地球上に植物が非常に繁茂した時期も分かってくる。また、南極の氷に含まれる微量の固体微粒子(ダスト)を調べると、当時の気温の変化と逆相関していることも分かってきた。このようなダストは、地球が寒く海水面が下がって地面が多く現れたときに風で巻き上げられたものが飛んできたものだ。また、ナトリウムの濃度を見るのも面白い。その起源はほとんど海水からの塩だからだ。

環日本海の雪氷状況

 日本海に話を戻すと、日本海ができて、日本に非常に雪が多く降るようになった。その雪のもとになるのは日本海の水蒸気だが、特に私どもが気になるのは、大雪となる降雪パターンだ。それには日本海低気圧型、日本の南側を通る南岸低気圧型、両方いっぺんにできる二つ玉低気圧型がある。そしてもう一つの類型は冬の季節風型で、衛星写真を見るとこの二つのパターンが交互に出てきているのが分かる。

 冬の季節風による降雪の仕組みはこうだ。日本海の海水面は非常に暖かくなっている。そこへ大陸の寒気が張り出してくる。そうすると、軽くて暖かい空気層の上に密度が高く、重くて冷たい空気層があることになり、非常に不安定となる。これがどこかで何らかのきっかけでひっくり返ると、上昇する部分と下降する部分が交互に生ずる。そして、上昇する所で水蒸気を含んだ軽い空気が上昇していくと、周りの気圧が低い分だけこの空気塊は膨らんでいく。これは外部に対して仕事をしていることになるから、そのエネルギーとして温度を奪い、温度が下がる。しかし、中に含んでいる水蒸気の量は同じであるため、気温が下がってくると、これ以上水蒸気が含めなくなって雪雲を作り、これが降雪となる。そして、下降する所では雲がなくなって晴れてくるわけだ。

             

(図)日本海を渡る筋状雲の構造

 

 冬の北陸道を車で走っていると、いきなり前が見えないくらいに雪が降ったかと思うと、5~10分もしないうちに青空になって、「よかった、晴れた」と言っていると、また次に激しく降ってくる。このように降雪と晴れ間が交互に来るのが冬型の雲の特徴だが、これは筋状の雲ができているからだ。また、横に長い帯状の収束雲が現れるときも大雪になるが、これをずっと延長していくと、なぜかいつも白頭山の辺りに達する。ほかに-40度の寒気が輪島の上空に入ってきたときに大雪になるというが、確かに日本海側や北海道へ寒気が入ってくる位置によって、平地に多く降るか、山地に多く降るかが分かれるようだ。

 さらに、皆さんがいちばん心配されているのは、温暖化によって雪がどうなるのかということだと思う。南半球では、1900年からの100年間で0.4~0.5度ぐらい、北半球では0.6度ぐらい気温の上昇がある。この違いは、北半球は陸地が多いのに対し、南半球は海が多いことから来る。水のある所は比熱の問題で温度変化が少なくなってくるのだ。しかしここ30年の地球の温度変化は顕著だが、もっと長い期間で見ると、約1万年前から現在にかけて温度が少し下がってきている。つまり、地球的に見ると現在は寒冷化しているのだが、人為的な温暖化ガスの問題が絡んで温暖化の現象が出てきているということだと思う。日本でも気温だけを見るとやはり何となく右肩上がりで、特に最近の温度上昇が大きい。一方、降水量にはあまり変化が見られないというが、変動の裏に隠れてしまっていることもあるので注意が必要だ。

 日本国内の積雪はだんだん少なくなってきて、富山でも町のほうでは雪囲いが全然なくなってきた。実際、1970年代からの積算の年降雪深を見ると、1987年を境にしてぐっと減っている。この原因は分からないが、富山の平野部の1~2月の平均気温は+2度ぐらいであることを考慮すると、この温度までは上空でできた雪が完全に水にならない状態で地上に達する。つまり、0.1度の違いでも雪になるか雨になるかが決まってくるのだ。しかし、私のこの説明によると、立山のような寒い所では雪はたくさん降ってよい。私たちは春先に車で行けるようになって最初に見たときの印象で「今年は雪が多い」「少ない」と言ってしまいがちだが、その時点での積雪ではなく、その年降った量で見なければいけない。実際、今年の1~2月はけっこう寒冷だったが、いちばん雪が多い3月ごろに気温が上昇し、4月上旬もまだ雪が降っていた。

 

(写真) 室堂平積雪断面観測スナップ 

 

 降った雪は非常にきれいな層構造を作っている。その中に、少し濃い色の汚れたラインが出ているのは黄砂を含む層である。これは春先に多いが、汚れた線が12月ごろの雪に見られることもある。また、南極の氷のようにダストの量も調べているが、汚れた層の所に多くの粒子があることが分かる。また、カルシウム濃度が高い層は黄砂を含んだものである。また、最近ではpH3.幾つという酸性雪もよく見られるが、黄砂がある所では化学反応して酸性ではなくなっていることが分かる。

 富士山、大雪山といった高い山の雪線(雪が残る限界線)は現在、山の上の方へ行っているから、氷河はできない。また、長いスパンで気候が変わってくると植物分布に影響する。すなわち、ブナの林やハイマツの高度が下がってくるのだ。また、雷鳥や高山植物の分布も気候の変動によってどんどん変わってくる。これをこまめに観察してチェックしていかないと、気がついたときでは遅い。高山の寒い所のものが立山などに残っているのは氷河時代からのつながりがあるからだが、今、高い山に点在している状態では、立山で消えてしまうと、やがて寒くなっても残ってこない。つまり、種の絶滅といわれる問題も絡んでいるということである。

(写真) 黒部五郎岳カール