大学等連携事業

2006年度 富山県大学連携協議会公開講座 「北東アジアの経済関係」


2006年度 富山県大学連携協議会公開講座
平成18年10月14日
富山県民会館401号室
第3回 2限目

講師  富山大学極東地域研究センター 教授
今村 弘子氏

高度成長の続く中国

 現在の中国は世界第4位の経済大国だが、1人当たりのGDP(図1)は世界の110位、日本の23分の1である。ただ、購買力平価で見ると、日本の3.9兆ドルに対し、中国は8.5兆ドルで、日中はすでに逆転しているともいえる。このような中国の高度成長をもたらした要因としては、1978年末以来実施されてきた改革開放政策と、それによる外資の導入が同時並行的に行われたことが大きい(図2)。しかも、90年代半ばには中国を「世界の工場」と考えての進出が多かったが、2001年のWTO加盟以後は、中国を「世界の市場」ととらえての進出が多くなりつつある。2005年には少し契約件数が減少しているが、これは中国市場にかなり飽和感が出てきたことと、2年ぐらい前から賃金が上昇し始めていることによる。ただ、このような賃金の上昇は、一般のワーカーよりも、日本語が話せる、会計ができるといった専門職の人々を外資系企業が奪い合う結果として起こっている側面がある。

 

(図1) 高度成長の続く中国
(図2) 直接投資の導入

 

 日本の中国への直接投資は「ユニクロ現象」の95年がピークで、アジア経済危機で少し減少し、また2001年以降増えている。最近特に増えているのは自動車関連産業で、部品産業が大挙して中国に行っている。また、中国の貿易は5割強が外資系企業の貿易で、93年は貿易赤字だったが、それ以降は輸出超過となっている。ちなみに昨年の輸出超過額は1000億ドルを超えており、アメリカやEUとの貿易摩擦が現在、激しくなっている。昨年の人民元の切り上げも国際的な圧力によるものだった。日本の貿易では、昨年は日本の貿易全体で17%が中国、17.9%がアメリカだったが、恐らく今年はこれが逆転するだろう(図3)

 

(図3) 日本の対中・米貿易

 

中国経済~今後の課題

 しかし、中国経済にも問題はある。その第1は、投資ばかり多い粗放型の経済成長から、もっと効率がいい経済への転換が図れるかということだ。昨年も経済成長率を7~8%台にする目標をたてていたが、結局10%を超えた。これは、自分の在任期間に経済成長がスローダウンすることを恐れる各地の省長などが競い合っているからだ。実際、30省あるうち全国のGDPの成長率より低いところは1~2省しかない。モノは作られているからGDPは成長するが、家電製品などは80年代から過剰生産になっている。過剰生産なので安値で販売せざるを得ず、輸出の場合ダンピングとなり、貿易摩擦の原因の一つなっている。

 中国経済の課題の第2は、エネルギー効率が非常に悪いことである。同じ製品を作るのに、中国は日本の9倍近いエネルギーを使う。3年程前からの世界的な石油価格高騰には、イラク戦争などの供給側の問題とともに、中国などの需要側の問題があるといわれる。

 第3の問題は、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博のあと、反動不況が来ないとも限らないということだ。また第4の問題は、沿海部と内陸部の所得格差である。2001年以降、西部大開発といって、内陸地域の経済の底上げをする政策を執っているが、いまだに地域間格差は大きい。さらに都市と農村の所得格差は大きく、農村では昨年から税金を取らない措置もなされている。これは、中国では78年以来何回か穀物の買い上げ価格を上げてきた結果、今は国際価格よりも高くなり、これ以上穀物の買い上げ価格を引き上げるわけにもいかず、農家の収入を上げる手立てがないことから、農家の支出を抑制するしか方法がないからである。

 第5に、中国は79年からの一人っ子政策で、高齢化が急激に進んでいる。それにもかかわらず、養老保険と呼ばれる年金制度がまだ一部しかでき上がっていない。

 最後に、昨年あたりから少しずつ外資の導入が減ってきている。これは、中国側が外貨の選別を行っているという要因のほか、外国側も鳥インフルエンザ、SARSなどのリスクを考えて、特に労働集約産業について中国以外へのシフトを考えている結果だと思う。

北東アジアの不安定要因~北朝鮮

 次に北朝鮮だが、ここはどうも出口が見えない状況にある。私は北朝鮮を「計画なき計画経済国家」であり、「被援助大国」であり、海外との経済関係が薄い「ボーダフル・エコノミー」の国であると常々説明している。実際、北朝鮮の計画が計画どおりに終わったのは最初の二つだけで、現状では計画そのものも発表されていない。無理な増産運動や繰り上げ達成運動などを行っても、原材料の供給が続かないなどの理由で計画をきちんと行うことができなくなっているのだ。また、金日成、金正日の細かすぎる指示もある。例えば太陽の光線を浴びるためには畑にトウモロコシを400株植えるのがよいのに、土地がもったいないから600株植えろと言ったりしている。その非科学的な指示にだれも異を唱えることができない状況だ。そして、社会主義国では、表の経済と闇の経済があることが多いが、北朝鮮にはもう一つ、軍事経済があって、軍に優先的に金が回されている。

 また、特に80年代までは中国とソ連、特にソ連からの援助が多かったが、ソ連の崩壊で援助が激減した。中国も中ソ対立や東西冷戦が終了したことから、90年代には援助政策を見直し、北朝鮮への援助も減少している。

 「ボーダフル・エコノミー」とは私の造語で、ボーダレスの反対語だ。今、北朝鮮の経済は輸出が減少し、外貨が減って、輸入が減少するという悪循環により、鎖国に近い状況になっている。北朝鮮は1984年という良いタイミングで合弁法を発表している。1985年のプラザ合意以降、日本や欧米諸国の対外投資が進んでいたので、それをうまく活用すれば外資導入もうまくいったはずだが、北朝鮮は情報の流入、流出を恐れて外資導入には及び腰だった。その結果、現状では四隅の改革にとどまっている。四隅とは、羅津・先鋒、中国国境の新義州、38度線近くの開城、金剛山で、開城には韓国向けの工業団地があり、金剛山には韓国の観光客を招いている。新義州には特別区を作る予定で、ここに中国で2番目の富豪を長官に据えようとしたが、その発表の数日後に中国がその人物を脱税容疑で逮捕してしまった。羅・先もカジノなどを細々とやっているが、あまりうまくいっていないようだ。開城も300社ぐらい誘致する予定だったが、今のところ15社にとどまっている。

中国と北朝鮮

 次に中国と北朝鮮との経済関係を見てみると、90年代から中国の対北朝鮮援助が減少しているためか、北朝鮮のミサイル発射後は、中国が6か国協議に復帰するように説得に行ってもうまくいかない状況になっている。80年代までは両国の首脳同士が会うときなど、中国は「両国は唇歯の関係で、唇が滅びれば歯も滅びる」と言っていた。その関係が90年代に普通の関係になったのは、92年に中韓が国交樹立したことにも見て取れる。

 もう一つ、原油の輸出などには80年代まで他国の3分の1という友好価格が存在していた。ところが90年代からは特別価格ではなくなり、中国と韓国との国交樹立のあとは、北朝鮮が援助を求める代表団を中国に派遣しなくなった。ただ、95年の北朝鮮における大洪水以後は中国からの食糧援助が再開されている。中国としても、朝鮮半島で何かがあって難民がどっと流れ込んだら困ることもあり、中国が音頭を取って2003年8月から六カ国協議が5回開かれている。第4回には共同声明まで出されたが、アメリカがマカオにあるバンコ・デルタ・アジアの北朝鮮口座を凍結したのちは北朝鮮が出席を拒否している。

 一方、2004年あたりから中国の対北朝鮮投資が増加し出したので、韓国では、中国が北朝鮮を東北の第4の省にするのではないかという警戒感が出てきている。ただ、これは完全に韓国側の誤解で、西部大開発と比べると東北振興策は国から出る資金が一桁少なく、中国が北朝鮮へ投資しているのは主に鉱物資源の開発である。しかもその鉱物資源の価格も、ほかの国より高いのは2000年のモリブデンだけで、それ以外は全部他国より安い。現在鉱物資源が世界的に値上がりしていて、北朝鮮から買う価格が相対的に安くなっているからだ。つまり、中国の北朝鮮への投資は、最近中国が始めている海外投資の一環と考えたほうがよいと思う。しかも、全体的な投資額から見ると、北朝鮮への投資は0.1%にも満たない。さらに、中国は足りないとなるとどんどん輸入し、原油もしばしば必要量以上に輸入してしまう。今年になって亜鉛や鉛の北朝鮮からの輸入量がかなり減っているが、これは中国が輸入しすぎてしまったという状況なのかもしれない。

 中国が今いちばん恐れているのは、中国国内の朝鮮族の人たちと北朝鮮の人々との一体化である。中国は93%が漢民族であり、少数民族対策は比較的うまくいっているといわれる。しかし、吉林省の延辺朝鮮族自治州では人口の4割が朝鮮族である。1960年代に漢族が大挙移住してきたことや民族闘争等で朝鮮族の人口は以前より減っており、朝鮮族には漢族に対するわだかまりは残っている。朝鮮族と北朝鮮の人々が一体化することは、ほかの少数民族に飛び火しかねない問題なので、中国としては、これは何としても避けたいだろう。

 それから、最近、中国から北朝鮮への輸出が増えているように見えるが(図4)、原油の値上げ分がその3~4割を占めている。また、中国で原油価格が高騰してトウモロコシをエタノール・ガソリンに使うことが多くなり、食糧として輸出するより国内で売ろうという動きもある。このため06年の中国の食糧輸出は、北朝鮮のミサイル発射以前から激減している。北朝鮮が突然崩壊すると中国に一時的にものすごいコストがかかるので、中国としては細々とであっても支援を続けようとしているのだと思うが、国連の経済制裁により、今後、中朝貿易が減少する可能性は高い。いずれにしても、北京オリンピックや上海万博を控えて、中国にとって頭の痛い問題であることは確かだ。

 

(図4) 中国の対北朝鮮貿易